インプルの髙橋です。
請負契約、準委任契約(SES)に関する規定を条文ベースで調べてみました。
請負契約
仕事の結果に対して報酬が支払われる契約形態であり、完成義務を負います。
ここで「仕事」は労務の結果により発生する結果のことであり、有形・無形は問われません。
双務契約であり、契約の当事者の双方が、互いに債務を負担する契約趣旨になっています。
請負人が負う義務・責任・権利
前提
- 仕事完成義務
適当な時期に仕事に着手し、契約に定められた仕事を完成しなければならない。
仕事の完成が難しくなった時、増加費用等の損害の負担は、請け負った人が負います。
また、成果物に瑕疵があったとき、注文者は請け負った人に損害賠償請求・契約解除権を有します。
注文した側は、請負人が仕事を完成しない間は、発生した損害を賠償して、いつでも契約を解除することができます。
ここで、損害賠償範囲は遺失利益(得られるはずだった利益)を含みます。
(参考: 請負契約とその規律)
請負人の担保責任の制限
請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき)は、注文者は、注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、請負人がその材料または指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。
民法第636条
請負側は、原則的に適当な時期に仕事に着手し、契約に定められた仕事を完成する義務を負いますが、注文した人が請負人に対して行なった注文や指図に過失があり、成果物の品質が契約の内容に適合しなかった場合、過失責任は注文側が負います。
正し、その指示や指図に問題があることを、請負側が認識していたにもかからわず告げなかった場合は、契約不適合責任を負うことになります。
注文者が負う義務・責任・権利
報酬の支払い
報酬は、仕事の目的物の引渡と同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第624条第1項の規定を準用する。
民法第633条
注文した人は、仕事の完遂・成果物の引き渡しに伴い即時に報酬を支払わなければなりません。
利益の割合に応じた報酬
次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
1. 注文者の責に帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
2. 請負が仕事の完成前に解除されたとき。
民法第634条
成果物が完成しなかったとしても、仕事の成果により注文者が利益を受ける場合、特定の条件を満たせば報酬の請求が行えます。
注文者の責に帰すことができない事由により完遂が難しくなった場合、請求が行える根拠は、危険負担の規定により担保されるようです。
その他規定
品質に関する担保期間の制限
前条本文に規定する場合において、注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
前項の規定は、仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)において、請負人が同項の不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、適用しない。
民法第637条
注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しない場合、履行の追従の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除権を失います。
正し、著しく成果物に対し過失を負っていたり、契約の要件を満たしていないことを知っていたにも関わらず通知しなかった場合、この要件は適用されません。
注文者による契約の解除権
請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
民法第641条
注文した側は、請負人が仕事を完成しない間は、発生した損害を賠償して、いつでも契約を解除することができます。
準委任契約
一定の水準で委託された業務を行い、求められた際は報告を行うなどし誠実に遂行する義務は負うものの、仕事を完成させる義務は負わない契約形態です。
主要な規定をピックアップしてみました。
受任者が負う義務・責任・権利
善管注意義務
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
民法第644条
受任者は、業種・業務に応じて要求される仕事を行わなければならないという責任を負います。ただし、これは善管注意義務であり、必須要件ではありません。
これは、委任契約が当事者間の信頼を基礎とする契約であることを根拠とするようです。(民法第644条 – 受任者の注意義務)
復受任者の選任
受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。
民法第644条の2
「本人の許諾を得たとき」又は「やむを得ない事由があるとき」のみ、復受任が許されると解される規定です。
代理権を付与する委任において、受任者が代理権を有する復受任者を選任したときは、復受任者は、委任者に対してその権限の範囲内において、受任者と同一の権利を有し、義務を負う。
民法第644条の2
委任者と復受任者との間の権利義務を明らかにする規定です。
委任に合わせて代理権を付与した場合、受任者と同一の権利・義務を負います。
受任者による受取物の引渡し等
1. 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
2. 受任者は、委任者のために自己の名で取得しtあ権利を委任者に移転しなければならない。
民法第646条
準委任契約を受けた側は、委任事務を処理する過程で得た金銭などを受任した側に引き渡す義務を負います。
報告義務
受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
民法第645条
善管注意義務に付随する規定であり、依頼側から報告を求められたら、状況を報告する義務を負っています。
委任の終了後の処分
委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。
民法第654条
契約の解除の発生に伴い、委任者に損害が発生する可能性がある場合、受任者は必要な処分を行う義務を負います。
これは、委任者の不測の損害を防止するための規定であり、委任契約が信頼関係に基づいていることを根拠としている以上、信任を受けた側が負う当然の責任と考えられています。
委任者が負う義務・責任・権利
受任者への報酬
受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第624条第2項の規定を準用する。
受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
1. 委任者の責に帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。
2. 委任が履行の中途で終了したとき
民法第648条
報酬の支払いは、特約がない限り後払いとなっています。
また、委任者の責任でない事案により委任事務の遂行が難しくなった時、および契約が途中で終わった場合、契約の履行の割合に応じて報酬の請求を行うことができます。
委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。
第634条の規定は、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合について準用する。
648条の2
準委任契約の遂行に伴う「成果」に報酬を支払うことに合意している場合、成果物の引き渡しに応じて支払い義務が発生します。
請負契約との違いとして、成果を発生させる契約だったとしても、履行部分に関しては報酬の請求が行える規定となっています。
双方が関連する規定
契約の解除
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
1. 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
2. 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。
民法第651条
契約は、委任者からも受任者からも任意に終了させることができます。
ここで、相手方に不利な時期に委任を解除したとき、損害賠償責任を負う可能性が生じます。
準委任契約において、契約の解除を行う場合、訴求効はありません。
契約の解除は、将来に向ってのみ発生します。
各契約のメリット・デメリット
それぞれの条文を読み比べて、メリットとデメリットを整理しました。
請負契約
メリット
- 成果物に対する保証:
請負契約は、成果物の完成義務があり、注文者は完成した成果物を受け取ることが保証されます。 - 品質の担保:
成果物に瑕疵がある場合、注文者は損害賠償請求や契約解除権を行使できます。
デメリット
- 注文者・請負側双方に高いリテラシーが求められる:
注文側の指示不備に起因した、契約不成立の責任は、注文側が負います。
請負側の悪意がある場合この限りではありませんが、現実的に証明は難しいです。 - リスクが大きい:
成果物が契約の要求を満たさない場合、請負人は重大な責任を負うことになります。
準委任契約
メリット
- 柔軟性:
成果物を完成させる義務はなく、業務の執行に焦点が当てられます。
そのため、作業の途中で業務内容の変更や成果物の調整を柔軟に行うことができます。 - 報酬の柔軟性:
部分的な履行に対しても報酬を請求できるため、作業の進行に応じて報酬を得ることができます。 - リスクの分散:
成果物の完成に対する直接的な責任がないため、リスクが分散されます。
デメリット
- 業務の完遂が保証されない:
完成した成果物を受け取ることは保証されません。 - 業務の成果が期待に応えられないリスク:
準委任契約において、受任者は委任業務の管理・報告責任を負いますが、あくまでも善管注意義務です。委任側は、受任者が十分に期待に応えられないリスクを負います。
最後に
一般的に、請負契約はリスクが重く、準委任契約の方がより安全だという印象を持っていたのですが、今回条文を具に読み、注文者側が負う責任が案外重い印象を受けました。
それぞれの条項の趣旨の差異は、請負が相互に債務を負担する考えに基づいているのに対し、準委任は相互の信頼に基づいた契約になっている点から表現されているように見えました。
法律の知識を持つことは、最終的に自分を守ることにつながります。
実際に使うかは別として、知識として知っていることにより、取ることのできる行動の選択肢も増えるのではないかなと考えています。